杭工事はなぜゼネコン社員の全数立ち会いが必要なのか

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杭工事は建物を支持するために非常に重要な工事です。 杭によって、建物と強固な地盤(支持地盤)をつないでいます。

そんな杭工事ですが、私が施工管理者として働いてた時に比べ、現在は、杭工事の管理ポイントがかなり増えています。

今回は、杭工事における施工管理者(ゼネコン社員、元請社員)の施工管理、立会い確認が強化された背景と管理すべきポイントについて解説していきます。

目次

杭未達によるマンション傾斜

建設現場に携わっている方は、まだ記憶としては新しいかと思います。

2015年頃、竣工後10年ほど経過した横浜のマンションにて杭が支持層に未達で建物が傾斜するというニュースが全国的に大きく報道されました。

横浜のような傾斜地の場合、杭が未達になる可能性というのは十分考えられます。 しかし、このニュース杭が未達であったという施工的な問題はもちろんですが、杭工事の施工管理体制としてさらに大きな問題も発覚しました。

杭の施工記録のデータ改ざんが行われていたことが発覚し、マンションは建替えおよび全国で当杭工事会社が施工した物件の全数調査というというところまで発展しました。

当時、私は施工を支援する内勤部署に所属していました。
会社のルールとして他の杭工事会社の施工含め、杭の支持層を確認するための抵抗値データを確認することになり、数日間、杭工事のデータとにらめっこする日が続きました。

杭工事の遵守すべき施工ルールの策定

この問題をきっかけに、国でも杭工事の管理に関する再発防止策が検討され、基礎ぐい工事の適正な施工を確保するために講ずべき措置と関係する会社全体に対する自主ルールの策定とその届け出がなどに関するルールが定められることになりました。

国土交通省のホームページもその過程や策定したルールなどが掲載されています。

タイトルにも全数立会いと記載していますが、「私の会社では社員による全数立会いまではルール化していない」と感じている方もいるかもしれません。

ゼネコン社員による全数立会いというのはあくまで社内的なルールです。ただ多くの会社で同様の管理方法とすることを決めたということで全数立会いが一般的なものとなってきました。

試験杭はこれまでも設計管理者立会いの下、支持層の確認や施工管理手順の確認などがなされてきました。
本杭に関しては従来では抜き取りでゼネコン社員が立ち会い、他の杭は施工記録から確認するというものが一般的でした。

施工ルールの策定において、本杭の施工管理・記録については、施工会社と元請会社に分かれて以下のように記載がされています。

元請建設業者の下請負人は、オーガ掘削時に地中から受ける抵抗に係る電気的な計 測値、根固め液及びくい周固定液の注入量等施工記録を確認し、元請建設業者に報 告すること。元請建設業者は、下請負人から報告がなされた場合には、その施工記録がくいの支持層到達等を証明する記録としての適正性を確認すること。

出典:国土交通省「基礎ぐい工事の適正な施工を確保するために講ずべき措置(告示) 概要」より

上記はあくまで一部の引用です。
策定ルールについては、国土交通省のHPを必ず確認するようにしてください。

杭の支持層への到達はオーガー掘削時に地中から受ける抵抗によって、抵抗が大きい=地盤が固いとして一定の値以上の場合を支持層として判断します。

杭が支持層に到達したことを元請であるゼネコン社員に報告して、ゼネコン社員はその記録を確認することが必要になります。

これだけを素直に読むと、全数立会いすることと記載されているわけではありません。
しかし、今回の非常に大きな問題を受けて、各社がより厳しい自社ルールを定めて適正な杭工事の施工管理が求められるようになりました。

杭未達およびデータ改ざんはなぜ起きたか

ここからは、杭未達という問題、さらにその未達を隠すようなデータ改ざんはなぜ起きたかを私の考え含め解説していきます。
※あくまで一般的な杭工事としての課題であり、ニュースで取り上げた建物・工事とは別であることをご了承ください。

ポイントは以下の3点と考えます。

POINT
  • 支持地盤が傾斜地であったこと
  • 既成杭を使用していること
  • 管理体制が不十分であること

支持地盤が傾斜地であることについて

支持地盤は地層ですから、土地によって高低差があります。
支持地盤に必要な強度は構造計算の過程で算出されますが、その地盤がどの深さにあるのかは、数少ないボーリングデータなどから推定されることがほとんどです。

設計時に数か所で地質調査(ボーリング調査)を行い、さらに過去の施工記録などから地中の柱状図を確認していきます。
ボーリングした箇所は数点ですので、ボーリング地点とボーリング地点の間の地層は、推測で求めていきます。

もちろん設計段階のボーリング調査は設計するために必要な情報を得るためですので、工事に際して、ボーリング調査が不足していると考えたら、追加ボーリング調査を実施したり地盤特性を少しでも明らかにできるようにしていきます。

追加ボーリングを実施しても確実にすべての杭の箇所の支持地盤の深さを把握できるわけではありません。

既成杭であること

杭にはいくつか種類があります。
杭の製造について大別すると、工場で製作した杭を現場で打設する既成杭現場で削孔して、鉄筋を挿入してコンクリートを打設する現場造成杭に分けることができます。
既成杭は、その材質から鋼製杭とPC杭に分けることもできます。

杭は杭自体の設計思想、上部構造、建物周囲の地盤、施工性(騒音・コスト、、、)など様々な要因を考慮して、決定されますので、一概にどれがいいということはできません。

既成杭であることが直接の問題であるわけではありませんが、現場造成杭と違い既成杭はすでに長さが決まっていますので、実際の現場で削孔しているときに想定深度で支持地盤とみなすことができる抵抗値を確認することができないという可能性は十分にあります。

支持地盤に到達していないということはあり得ないので、基本的には支持地盤に到達するまで打設を進め、その分杭頭が深くなってしまうので、設計監理者や構造設計者と確認して基礎の補強など構造計算の再計算などが必要になります。

実際はどうでしょう。
ただでさえひっ迫している工事期間やコストの中で、こういった事例に遭遇した場合、ゼネコン社員に相談するわけでもなく、何とかしなければならないと感じてしまうのではないでしょうか。

先ほど補強としてあげましたが、構造体の補強で対応できればまだいいですが、あまりに原設計の基礎深さと異なる場合、構造計算の変更では対応でいない可能性も十分にあります。

そうなると次に考えられれるのは杭の作り直しですが、杭の造成には数か月を要します。
また、現場で杭打設していることろには、他の現場分の杭を製造しているでしょう。そう簡単に杭を作り変えるということも困難です。

杭工事の施工管理体制

杭工事は、金額的にも大きな工事であり、杭工法自体が大臣認定であったりすることもあるので、基本的に杭工事会社の担当者が現場常駐して杭工事の管理を行います。

ニュースで上げた杭の未達ですが、実はいろんな工事で同様の不具合は発生しています。
そこには、杭工事会社の担当者に任せきりになっており、ゼネコン社員は試験杭で確認した後は、抜き取りで確認するだけであったり、杭工事の施工報告を杭の全体工事が完了した後に受け取るということが常態化してしまっていた管理体制の不十分さがあげられると思います。

基本的に、杭工事会社の担当者とゼネコンの杭工事検査者は管理すべきポイントが異なります。

杭工事の担当者は、杭が認定工法通りに施工されていることを管理しており、ゼネコン社員は、杭が設計図書通りに施工されていることを管理します。

両者とも、支持層の確認、各工法手順の確認、杭点レベルの確認など多くの重複するポイントはありますが、支持層の確認はゼネコンの責任で管理すべきポイントです。

オーガーの電流抵抗値を見るだけで、ゼネコン社員、特に若手社員は支持層に達したかどうかを判定するのは難しいと言えます。 ただ、杭工事会社の担当者、施工者と一緒に確認すること自体も重要です。

施工管理者(ゼネコン社員)が管理すべきポイント

不具合が起きた要因はほかにもさまざまな要素が絡んでいると思いますが、三点に絞り考察してみました。

土地の性質(傾斜地かどうか)と杭の種別は設計者で仮定し、実際の工事現場では、施工管理者含め確認すべき重要なポイントです。

そのために、試験杭を実施して、支持層の確認を監理者立会いの下行っていきます。
また、その際に杭工事会社の施工手順も確認していきます。

最後の管理体制は、杭工事会社と施工管理者の重要な管理ポイントです。
特に、施工管理者(ゼネコン社員)としては、支持層の確認はもちろんですが、これまで杭工事会社任せになっていたポイントも改めて確認していく必要があります。

支持層の確認では、やはり現地にて実際のオーガー先端に付着した土を確認して、土質サンプルと照らし合わせて支持層まで到達することを確認するとともに、オーガー電気抵抗値も確実に確認することが重要です。

また、杭の施工記録も杭工事後一括で受け取るのではなく、杭を施工したその日のうちに打設した杭の分だけ受け取り、自身が確認したポイント相違ないか、設計図書通りの施工ができているかは確認していく必要があります。

おわりに

杭の工事管理については、私が現場常駐していた時に比べ、ゼネコン社員の管理ポイントは増えたと感じています。 ただ、増えたというよりは、これまでもやらなければならなかったが、任せきりになっていたというのが、実情です。

杭は、地中の見えないところで、建物を支え続ける縁の下の力持ちです。 ただ、施工中も直接杭の先端を確認することなどは困難ですので、施工手順やいくつかの管理ポイントを徹底することで品質を担保していく必要があります。

杭工事担当者は、ほぼへばりつきで杭工事の管理をしていくことになり、非常に大変です。 ただ、なぜこの管理が求められているか、その重大性をしっかりと認識して、適切な工事管理をしていってもらいたいと思います。

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