こんにちは。
今回は、実際に現場から質問のあった事項を元に鉄筋の簡単な強度計算を行なっていきたいと思います。
はじめに
現場からどのような不具合があり、相談が来たのかを簡単に説明しておきます。
ざっくり言うと スラブ鉄筋のx、y方向の配筋間違い です。
このようなミスを防ぐためには、構造図を必ず確認してX、Yの方向(主力筋と配力筋の方向)を明らかにする。という現場管理方法しかないのですが、
スラブ配筋の間違いはX、Yがたとえ同径、同ピッチでもそのポテンシャルは低下することを認識していただくことも技術屋として必要なことだと思います。
ちなみに、当現場では、配筋違いを起こしたスラブは限られた範囲でしたので、一度バラして組み直しました。
RC造の鉄筋の強度計算
RC造における鉄筋の強度計算は、釣り合い鉄筋比以下という条件のもと、
$$M=at×ft×j$$として表れます。
- Mとは言わずと知れた曲げモーメント
- atとは、鉄筋の有効断面積
- ftとは、鉄筋の許容引張応力度
- jとは、応力中心間距離
この中で、鉄筋の許容引張応力度は鋼種にもよりますが、下表のようになります。
また応力中心間距離とは、圧縮縁から引張鉄筋の中間までの距離の7/8倍として表すことができます。
配筋間違いによる影響
M=at×ft×jという式から、スラブ筋が主力筋、配力筋ともに同径、同ピッチだった場合、違いはjの応力中心間距離のみとなりますね。
スラブには、主力筋方向と配力筋方向というものがあります。
今回は、この方向を間違っているため、主力筋として期待する許容応力度が、応力中心間距離Jの分小さくなってしまします。
主力筋は、外側の鉄筋を指し、配力筋は内側鉄筋を指します。したがって、鉄筋一本分応力中心間距離が小さくなってしまいます。
それでは、どのくらい強度が低減するか実際に計算してみましょう。
強度計算
スラブ厚さ180mm
上端筋、下端筋共 主力筋D13@150、配力筋D13@150とします
正しい配筋の時のスラブの保有耐力
RC造の曲げモーメントの計算は釣り合い鉄筋比以下という条件のもと
M=at×ft×jとして求めることができます。
ここで、at:鉄筋の有効断面積、ft:鉄筋の引張許容応力度、j:応力中心間距離となります。
まず、 atはスラブ幅1mあたりとした場合1000/150=6.67本です
また、D13の有効断面積は1本あたり127㎟です。
つまり、幅1mあたりのatはat=6.67×127=847㎟となります。
次に、ftはD13であるための鋼種を一般的なSD295Aとした場合、長期許容引張応力度は、
ft=195N/㎟です。
最後にjですが、jは引張の作用位置(引張鉄筋の中間位置)と圧縮の作用位置、面で受けるコンクリートの重心位置この2点の距離となります。
非常にややこしく計算で求めるのは容易ではありません。
そこでコンクリートの圧縮縁から引張鉄筋の中心までの距離(これを有効せいdという)を7/8した距離として表すことができす
つまり、d=180mm(スラブ厚)-30mm(かぶり厚さ)-13/2(鉄筋の中心距離)=143.5mm
したがって、j=7/8×d=7/8×143.5=125.5mmとなります。
最後にスラブが有しているポテンシャルは、
M=at×ft×j=847×195×125.5=20.72kN・m(桁が大きくなるので単位修正しました)
間違った配筋の時のスラブの保有耐力
計算方法はまったく同じですので、計算式だけを記載していきますが、
変わるのは応力中心間距離jだけというのがわかるとおもいます。
今回の場合スラブ上筋のX,Y方向を間違えて配筋してしまっています。
つまり本来であれば最外(最上)とならなければならない鉄筋が2段目に配筋されているのです。
したがって、
有効せいd=180mm(スラブ厚さ)-30mm(かぶり厚さ)-13mm(上側て鉄筋)-13/2mm(引張鉄筋の中心)=130.5mm
応力中心間距離j=7/8×130.5=114.1mmとなってしまします。
保有している曲げモーメントは
M=847×195×114.1=18.94kN・mとなります。
保有耐力の低下率
最後に、単純は配筋上下の間違いがどの程度耐力低下を引き起こすのか100分率であらわしておきます。
{1–(18.94/20.72)}×100=8.6%
まとめ
今回算定したスラブ筋の配筋間違いによる耐力低下は8.6%です。
これがどの程度影響を与えるのかは設計の余裕度によるものですので、施工者側では判断できません。
しかし、耐力低下していることは明らかであることから、不足分の鉄筋を追加で配筋したり
一度組み直したりの対応はかならず必要となります。
RC造における曲げモーメントの計算は柱でも梁でも計算方法は今回の場合と同じです。
断面算定、鉄筋算定の根拠を知っているだけで、単純な図面の読み間違いや思い込みによる不具合が悪影響をあたえることのイメージが付くと思います。
また、今回の計算でももう一つ鉄筋の配筋関する注意事項が読み取れると思います。
それは、かぶり厚さの管理です。
かぶり厚さの不足は法違反としてその厳守は当たり前のようになってきました。しかし、今回計算したように必要以上のかぶり厚さを設けると、それも耐力低下につながります。
かぶり厚さはコンクリートの中性化による鉄筋の腐食を許容期間中に起こさないようその最小厚さが決められていますが、それと同時に強度としてはなるべく外側にあった方が有利です。
rc造の耐力はこのバランスによっても設計されていることを理解しておくことが良いでしょう
さいごに、
これらのことを知っていることで注意深く図面を読み込むことで単純な間違いをなくし、品質の高い建物を世に提供し続けていただきたいです
コメント
コメント一覧 (1件)
7階建てマンションの1階部分のピロティ柱の基部ですが、耐震壁を設置するため掘り出してみると、柱の立て方向の鉄筋が曲がって配筋(基礎部への埋め込み鉄筋を先に配筋するが、柱寸法との整合性が取れなく5cm程度曲げている)〔(寸法800×800;鉄筋D22φ-6本)耐震上より、補強対策が必要ではないですかと思いますが、工事業者は、よくあることで問題は無いとのことですが,宜しくお願いします、補強対策が必要な場合はその案も教えてくだされば幸いです。