建設工事では、工事を進めるうえで諸官庁に対して様々な打ち合わせや書類の提出が必要になります。
今回は、その一つである「つり上げ荷重3t以上のクレーンの設置工事」に当たり労働基準監督署に提出が必要な設置届と設置後に実施する落成検査までの一連の流れを紹介してきます。
設置届の提出とその後の継続的な打ち合わせから落成検査当日の対応まで、現場監督が実施すべき項目を重点的に紹介していきます。
設置届が必要なクレーン
冒頭でも記載していますが、つり上げ荷重が3t以上のクレーン等を設置する場合、労働安全衛生法、労働安全衛生規則、クレーン等安全規則により、労働基準監督署へ機械等設置届の届け出が必要になります。
クレーン設置届と落成検査が規定されている関係法令については別記事でエントリーしています。
設置届と落成検査の必要性は知っているけど、どの法令のどの条文で規定されていのかわからないという方は、あわせて参考にしてください。
また、つり上げ荷重が3トン未満のクレーンを設置する場合は、設置届は不要になりますが、クレーン設置報告書が必要になります。
設置届提出から落成検査まで
設置届から落成検査までに実施する資料作成や打ち合わせなどは以下のようになります。
それでは一つ一つの手順について、その詳しい内容や留意点などを説明していきます。
また、設置届の内容のなど一つ一つの提出書類についてのより詳細な項目は、別記事でエントリーしていく予定です。ご参考にしてください。
設置届および落成検査申請の作成
設置届は、対象となるクレーンを組み立てる30日前までに提出が必要です。
届け出の一式自体、クレーン工事の協力会社が作ってくれることがほとんどであると思いますが、届け出する事業者は元請になりますので、必ず内容を確認しておきましょう。
また、クレーンの組み立てには3日~5日程度要しますが、設置届を提出する30日前とは、クレーン組立開始の初日から数えることになりますので、注意しましょう。
クレーンの設置届はクレーン性能や本体構造に関する資料がほとんどです。
したがって、基本的にはクレーンメーカーなど専門工事会社に作成を依頼することが多いです。
ただ、施工計画図など元請けで準備すべき資料もありますので、どのような資料が添付されているのか、元請けで何を用意する必要があるのかは確認しておきましょう。
クレーン設置届が必要なクレーンは落成検査を受けることになりますが、落成検査を受けるためおクレーン落成検査申請書という別の書式もあります。
こちらは、落成検査の申請をするもので、提出は落成検査の日程を決めてからでよいのですが、設置届と同じタイミングで提出することが多いです。
設置届提出の際に落成検査を実施する予定日を事前に担当監督官に伝えて、スケジュールの調整をしましょう。
落成検査になると現場の都合だけでなく、担当監督官のスケジュールや当日の天候によることもあります。
多少は余裕を持った工程計画を練っておくようにしましょう。
元請けで作成する設置届内の資料
設置届のうち、元請けが作成・準備すべき資料を紹介していきます。
総合仮設計画図(クレーン施工計画図)
まず、クレーンの設置位置や組立計画図を作図してもらうためにも総合仮設計画図が必要になります。
クレーン計画は営業時点や着工早々から検討していることが多いので、ほぼ作成されているかと思いますが、具体的な位置などは、小梁や内部間仕切壁の位置などと調整して決めていくことが多いので、必ず明確にしておきましょう。
クレーン基礎部の強度計算書
次に元請で作成する必要があるものとして、クレーンの計算書(基礎・支持杭)があります。
クレーン自体の作業時・強風時・地震時といった強度検討や架台の強度検討はメーカーで実施してくれているかと思います。
一方、架台より下、例えば、クレーンを支持するための仮設杭の検討であったり、建物基礎にアンカーボルトを埋め込み支持させる場合の基礎自体の強度検討などは、元請けで検討したりや別協力会社に強度検討を依頼することもあります。
本設の基礎などにアンカーなどで荷重を付加させる場合は、構造設計者にも確認が必要になります。
全体工事工程表
次に、全体工事工程表です。
クレーン設置届に添付が必要な工事工程表は、クレーンの設置開始時期とクレーンを使用している期間が明確になる工程表が必要になります。
必ず全体工程表に、クレーン組立とクレーン解体のマイルストーンとクレーン設置期間を記載しておきましょう。
現場案内図
最後に、事務的な資料ですが、現場案内図・現場位置図が必要になります。
周辺の環境がわかる資料と実際に落成検査や臨検の際に必要な現場までの案内図になります。
現場案内図はさまざまな協力会社などに配布するのですでに作成されているかと思いますが、添付が必要ということだけ忘れずにしましょう。
クレーン落成検査申請書で元請が用意するもの
次にクレーン落成検査申請書の提出で用意すべきものについて説明していきます。
クレーン落成検査申請書は、特段必要な添付資料はなく、落成検査の日程希望などを記載した書式です。
クレーン落成検査申請書の留意点として、落成検査手数料を収入印紙で納める必要があるということです。
クレーン落成検査の手数料はクレーンのつり上げ能力によって異なってきますので、労働安全衛生法から必要な手数料を確認しておきましょう。
なお、手数料は収入印紙での納付になります。クレーン落成検査申請書に提出した際に貼り付けますので、忘れずに準備しておきましょう。
監督署への提出
監督署への提出は、設置届ですので設置する日(クレーン組立開始日)の30日前に提出が必要です。
30日前となると、地上躯体からクレーンを使用する場合する場合、多くの現場ではまだ基礎工事の真っ最中かと思います。
地上躯体においても早めの計画と余裕を持った届け出提出資料の作成を心掛けましょう。
また、クレーン落成検査申請書の提出も設置届と同タイミングで提出するとなると、落成検査の日程が明確に決まっていない場合もあるかもしれません。
ただ、クレーン落成検査申請書は、設置届と異なり30日前に提出しないといけない書類ではないので、あとから訂正は可能です。
この時点では希望日として提出しておきましょう。
ただし、落成検査を受け、合格を受けないとクレーンの組み立てが完了しても使用することができませんので、落成検査日も工程表に組み込んで工程計画を練っていきましょう。
なお、その後の工程調整により、落成検査が早められる可能性がある場合は、設置届はそのことも見込み早めに提出するようにしましょう。
落成検査を早めたいとしても設置届の提出から30日を切ってしまっては原則的にクレーン組立を開始できません。
監督署の審査
設置届提出後は、担当監督官による審査期間となります。
30日前に提出することは、監督官も提出された設置届をしっかりと審査しないといけないので、まとまった期間が必要であることは理解しておきましょう。
ただし、設置届を提出する際にも、その場で担当監督官が内容をざっとチェックすることがほとんどです。
設置届提出の際は、工事担当の現場監督とクレーン協力会社が同行して伺うようにしましょう。
クレーン自体・構造に関する質疑、クレーンを構成するワイヤーやボルトに関する質疑が監督官よりある場合もあります。
その回答はクレーン協力会社でないとスムーズな回答は困難です。
また、総合仮設計画図についてやクレーン組立時およびクレーン落成検査時の必要なスペース、立ち入り禁止範囲といった工事全体に関する確認もありますので、その際は、工事担当の現場監督がきっちりと説明できるように準備しておきましょう。
なお、監督官による本格的な審査は先ほども記載しましたが、一度受領したのちに担当監督官の業務として時間を取って審査することになります。
届け出提出後も電話連絡等で追加の質疑があったり、不足資料や十分な説明を要する必要がある場合は、再度監督署に伺う必要もあります。
したがって、クレーン設置届を提出する際は、クレーンに関する窓口(クレーン協力会社)、工事に関する窓口(元請け現場監督)を分けて担当者を伝えておきましょう。
追加書類の提出と落成検査要領の打ち合わせ
さて、届け出提出後、いよいよ落成検査の日程が近づいてきました。
クレーン組立の1週間程度前には、落成検査要領を事前に打ち合わせするため、再度監督署に伺っておいた方が無難です。
この時期であれば、クレーン組立に関する作業検討会なども作業所で実施しているかと思いますので、クレーン組立時の配置計画・立入り禁止範囲計画なども計画が完成しているでしょう。
事前に落成検査要領書(落成検査当日のスケジュール、試験用ウエイトの組合せなど)を作成しておきましょう。
試験用ウエイトなど落成検査当日になって勘違いなどで不足が生じた場合、すぐにウエイトを用意することは困難です。事前にどの重量で試験を行うかなどは確認しておきましょう。
た、設置届提出時に追加で提出資料が求められたものや質疑の回答なども用意しておきましょう。
落成検査当日でもよいのですが、すぐに解決できるものはなるべく事前に行っておいた方が検査もスムーズになります。
落成検査当日
落成検査は、書類の確認と実機を用いた検査を実施することになります。
書類等の確認
書類等の確認は落成検査自体の項目ではないのですが、設置届の際に提出してない工事資料などはこの際に提出することになります。
私が経験した工事では以下の資料を事前に提出しましたので参考にしてください。
- クレーン始業前点検表
- クレーンに用いるワイヤー、ボルトのミルシート
- クレーン基礎(隠ぺい部)の工事写真
クレーン組立後の自主点検記録や新品の鋼材を用いるワイヤーなどのミルシート、さらにクレーン基礎として用いたアンカーボルトの工事写真を提出しました。
また、クレーンの落成検査には、玉掛けとクレーン操作が必須になりますので、オペレーターと鳶工には、資格証を必ず携帯するように伝達しておくようにしました。
実機検査
落成検査の検査項目は、クレーン等安全規則によって決まっています。
- 構造および性能の点検
- 荷重試験
- 安定度試験
以上の三項目です。
構造や性能は実際にクレーン現物の部材を目視点検などしていきます。
また、この際にクレーン旋回体まで必ず昇りますのでクレーン工事担当者はその準備・心構えはしておくようにしてください。
さらに、旋回体まで昇るということは、安全帯はフルハーネス型を用意しておく方が無難です。
作業床がないところで作業するわけではないので、クレーンの点検自体にフルハーネス型安全帯の装着は義務ではありませんが、高所作業ではフルハーネス型が一般化してきている中ですので、用意しておきましょう。
ちなみに、私が立会いした落成検査では、すべてにおいて担当監督官もフルハーネス型を装着しておりました。
荷重試験、安定度試験では、実際にクレーンでウエイトを吊ってその性能確認する検査になります。
基本的には、クレーンの最小半径と最大半径といった限界値での揚重を確認することになります。最小半径時に揚重できる重量をつり上げての旋回、最大半径時に揚重できる重量をつり上げての旋回を実施します。
ただ、現場であれば最大半径で自由に旋回してしまうと敷地外までクレーンジブが飛び出してしまうことが多々あると思います。
どこまでが、旋回可能かを事前に監督官と協議しましょう。
また、クレーン組立中はもちろんですが、落成検査中は関係者以外は立ち入り禁止となります。
試験では定格荷重以上のウエイトを揚重するため、クレーン周囲や吊り荷直下だけではなく、旋回範囲すべてを立ち入り禁止とするようにしておきましょう。
したがって、当日落成検査の間は資材搬入や工事の進捗に支障、要調整が必要となります。工程計画も練っておきましょう。
タワークレーンの上に監督官が昇りますので、現場全体をよく見渡すことができます。
私は経験がありませんが、クレーン専門会社の担当者の話では、落成検査は合格したけど、他で是正勧告をもらったという現場もあったそうです。注意しましょう。
まとめ
タワークレーン組立における落成検査までの流れを説明していきました。
また、今回は記載していませんが、タワークレーンのクライミングがある場合は、都度、落成検査が必要であることも留意が必要です。
都度、設置届を提出することはありませんが、落成検査申請や検査手数料の納付などそれぞれのタイミングで忘れずに行いましょう。
設置届など書類として、作成するものは多いですが、一度流れがわかってしまえば、クレーン組立・落成検査から逆追いで、何をいつまでに作成すればよいか、打ち合わせをすればよいか決まってきます。
落成検査やその準備がスムーズにいかないことによって、工程が遅れるということがないように、必要書類・スケジュール余裕をもって行動していきましょう。
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