足場計画図をはじめて作成しようとすると、必ず疑問になる足場と建物離れ。
そして、足場計画に慣れた人でも、完全に何mmと断言できない施工計画の永遠のテーマの一つでもあります。
この記事では、足場と建物離れについて安衛法などを参照して基準を探り、さらに具体的な数値を説明していきます。
足場の離れの基準
足場計画図を作図しようとすると、まずぶち当たる壁が、「建物と足場のクリアランス何mmなんだろう?」ではないでしょうか。
一般的には、300mmと言われていますが、これはどこからきた数値なのでしょうか。
また、300mmを確保できない、300mmより大きくなってしまうというときはどうすれば良いのでしょうか。
まず、足場の計画で初めに確認すべきは、労働安全衛生法および同規則(以下、安衛法・則)になります。
安衛法・則には、足場と建物の離れについてどのように記載されているのでしょうか。
結論から言うと、安衛法・則で足場と建物の具体的な数値は記載されていないと言うことになります。
労働安全衛生法および同規則の規定
まずは、安衛則のうち、足場の構成にかかわる条文を見てみましょう。
条文を丸々載せますが、全部読み込んでもらう必要はありません、さぁーと目を通す程度でよいです。
安衛則563条
事業者は、足場(一側足場を除く。第三号において同じ。)における高さ二メートル以上の作業場所には、次に定めるところにより、作業床を設けなければならない。
一 床材は、支点間隔及び作業時の荷重に応じて計算した曲げ応力の値が、次の表の上欄に掲げる木材の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる許容曲げ応力の値を超えないこと。(表)
二 つり足場の場合を除き、幅、床材間の隙間及び床材と建地との隙間は、次に定めるところによること。
イ 幅は、四十センチメートル以上とすること。
ロ 床材間の隙間は、三センチメートル以下とすること。
ハ 床材と建地との隙間は、十二センチメートル未満とすること。
三 墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、次に掲げる足場の種類に応じて、それぞれ次に掲げる設備(丈夫な構造の設備であつて、たわみが生ずるおそれがなく、かつ、著しい損傷、変形又は腐食がないものに限る。以下「足場用墜落防止設備」という。)を設けること。
イ わく組足場(妻面に係る部分を除く。ロにおいて同じ。) 次のいずれかの設備
(1) 交さ筋かい及び高さ十五センチメートル以上四十センチメートル以下の桟若しくは高さ十五センチメートル以上の幅木又はこれらと同等以上の機能を有する設備
(2) 手すりわく ロ わく組足場以外の足場 手すり等及び中桟等四 腕木、布、はり、脚立(きゃたつ)その他作業床の支持物は、これにかかる荷重によつて破壊するおそれのないものを使用すること。
五 つり足場の場合を除き、床材は、転位し、又は脱落しないように二以上の支持物に取り付けること。
六 作業のため物体が落下することにより、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、高さ十センチメートル以上の幅木、メッシュシート若しくは防網又はこれらと同等以上の機能を有する設備(以下「幅木等」という。)を設けること。ただし、第三号の規定に基づき設けた設備が幅木等と同等以上の機能を有する場合又は作業の性質上幅木等を設けることが著しく困難な場合若しくは作業の必要上臨時に幅木等を取り外す場合において、立入区域を設定したときは、この限りでない。2 前項第二号ハの規定は、次の各号のいずれかに該当する場合であつて、床材と建地との隙間が十二センチメートル以上の箇所に防網を張る等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じたときは、適用しない。
一 はり間方向における建地と床材の両端との隙間の和が二十四センチメートル未満の場合
二 はり間方向における建地と床材の両端との隙間の和を二十四センチメートル未満とすることが作業の性質上困難な場合3 第一項第三号の規定は、作業の性質上足場用墜落防止設備を設けることが著しく困難な場合又は作業の必要上臨時に足場用墜落防止設備を取り外す場合において、次の措置を講じたときは、適用しない。
一 要求性能墜落制止用器具を安全に取り付けるための設備等を設け、かつ、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる措置又はこれと同等以上の効果を有する措置を講ずること。
二 前号の措置を講ずる箇所には、関係労働者以外の労働者を立ち入らせないこと。4 第一項第五号の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。
一 幅が二十センチメートル以上、厚さが三・五センチメートル以上、長さが三・六メートル以上の板を床材として用い、これを作業に応じて移動させる場合で、次の措置を講ずるとき。
イ 足場板は、三以上の支持物に掛け渡すこと。
ロ 足場板の支点からの突出部の長さは、十センチメートル以上とし、かつ、労働者が当該突出部に足を掛けるおそれのない場合を除き、足場板の長さの十八分の一以下とすること。
ハ 足場板を長手方向に重ねるときは、支点の上で重ね、その重ねた部分の長さは、二十センチメートル以上とすること。
二 幅が三十センチメートル以上、厚さが六センチメートル以上、長さが四メートル以上の板を床材として用い、かつ、前号ロ及びハに定める措置を講ずるとき。5 事業者は、第三項の規定により作業の必要上臨時に足場用墜落防止設備を取り外したときは、その必要がなくなつた後、直ちに当該設備を原状に復さなければならない。
6 労働者は、第三項の場合において、要求性能墜落制止用器具の使用を命じられたときは、これを使用しなければならない。
出典:労働安全衛生規則
条文の中に様々な文言や数値が書かれてましたが、足場と建物に関する記載を見つけることはできたでしょうか?
つもり、どこにも足場と建物の離れに言及している文章はないということになります。
足場材同士の隙間の規定(布材同士の隙間は3cm、布材と建枠の隙間は12cm以下など)などあるのですが、墜落においては交差筋交い交差筋交い+下ざんで法的に必要な墜落防止措置はとれているということになります。
ただし、それでも墜落事故が発生してしまうのが、建設現場です。
その他の参考ガイドライン
そこで、法的とまでいかなくとも、様々なガイドラインが発行されています。
足場と建物の離れについては、平成18年に厚生労働省より「足場先行工法に関するガイドライン」として、以下のような項目が記載されました。
なお、このガイドラインは低層住宅向けに作られたもので、建設全般に適用するものではありません。
(2)外壁と作業床の間隔及び墜落防止措置
イ 建方作業及び外壁施工前
出典:厚生労働省 足場先行工法に関するガイドライン
足場からの墜落を防止するため、足場の建築物の外壁位置と足場の作業床の端とができるだけ近接した位置となるようにも受け、足場には手すりを設けること
ロ 外壁施工後
建築物と足場の作業床との間隔は、30センチメートル以下とすること。
30センチメートル以下とすることが困難な場合には、足場足場に手すりを設けること。手すりを設けることが困難な場合には、ネットを設け又は労働者に安全帯を使用させる等墜落防止のための措置を講じること。
先ほど述べた通り、このガイドラインは、木造家屋等の低層住宅建築工事に向けたガイドラインではあります。
具体的に数値がうたわれれているのは、私が調べた中ではこのガイドラインくらいであると思います。
足場の離れの具体的な数値
足場と建物の離れは、一般的に300mm以下というものが標準です。
ただし、前にも述べたように法的拘束があるわけではありません。
墜落防止という観点から300mm程度であれば墜落は防ぐことができるというのが一般的な考えとなっております。
また、人の肩幅はおおよそ40cm強とされております。
墜落の衝撃が加われば40cm以下でもすり抜けてしまう可能性はあるのですが、人の肩幅などを考えても30cmという一般見解は大きく外れていないと思います。
ただし、実際に足場の計画をしていくと足場の離れはすべてがきれいに300mmとはいきません。
結局は、足場計画を実施する人の考え、足場参画者の考え、担当の労働基準監督署監督官の考えによるというものになります。
そこで、私の場合は、足場計画図を書き始める際に、外壁からの離れを300mmを標準として、250mm~350mm以下であればよいかと考えて作成することにしています。
この描き方でこれまでに、会社での審査や労働基準監督署の審査で指摘として挙げられてこともないので、絶対的な正解ではありませんが、おおよそ間違いでないと考えています。
ただ、今後担当する監督官などから指摘があれば、そこには素直に従って、足場計画図を修正します。
足場の設置届など計画の時に、監督官に反抗してはその後の臨検などで見る目がきつくなることもあると思うからです。
足場の離れが確保できない時の問題と対策
では、それでも250mm~350mmにおさまらないときはどういった対策をとればよいでしょうか。
足場が近すぎる場合
まず、足場が近すぎる場合ですが、足場の離れを再調整して足場計画図を修正する必要があります。
足場離れが極端に近い場合足場の離れが200mmなど近くなりすぎると、施工が困難になります。
例えば、コンクリート躯体としても型枠工事においては、コンパネ、締付けパイプ、フォームタイなどを考慮するとせめて250mmはないと近すぎて施工が困難であると言えます。
足場が離れすぎる場合
足場離れが広くなる場合躯体の形状などにより、足場の離れがどうしても大きくなる場合は出てきます。その際は以下の手順で足場計画を修正していきましょう。
- 足場計画図全体の離れを調整して、350mm内におさまるようにする。
- 足場計画図の一部に単管調整部など細工を入れて、350mm内におさまるようにする。
- ブラケット部材などを設けて、足場と建物の離れを狭くする。
>> その際、ブラケットを設ける足場は極力少なくする(取付手間がかかるため)。 - 350mm以上の離れが出ることを前提に、墜落防止材を各階ごとに取り付けて安全帯使用を徹底させる。
>> 墜落防止材はブラケットとベニヤ板以上のものとして、墜落の際に突き破りがないものにする。
以上の優先順位で計画していきます。ここで少し、計画修正の補足をしておきます。
②については、単管調整になるので、基本的に350mm以下に収めることができるのですが、その面の足場が、単独にならないように注意が必要です。
また、単管調整を行うと、手摺取付の手間やメッシュシートがきれいに張れないなどの問題も生じます。
④については、どうしても対応できない場合や鉄骨造などの場合で、外壁ラインから鉄骨梁までも隙間があり、外壁から300mmを基準にしていると、鉄骨建方後などどうしても隙間が空く場合にかぎり採用します。
結局、人が墜落しないようなブラケットを設けないといけないので、足場を設置しているのとあまり変わりません。
どうしても、足場と建物離れが自分で決めたルール内におさまらない場合は、上記のようなことを参考に実際足場を使用する協力会社にもヒアリングして、足場計画図を決めていきましょう。
まとめ
足場と建物の離れについて、法的な数値はありません。
しかし、墜落を防止することは法的にも求められている要求です。ただし、足場と建物の離れ30cm離れが、建設に携わる者の中では一般的にうたわれている数値になります。
私の場合は足場計画においては、30cmを基準に±50mmとして足場計画図を作成し、各協力会社とも打合せをしております。
これまでの経験上は、このルールで特に指摘等はありませんが、社内ルールや担当監督官から指摘があった場合は、素直に従うというのが、今後の現場運営でも要注意作業所としてレッテルを張られることもなく、楽になると思います。
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