構造計算をするうえで部材の応力度として、短期許容応力度や長期許容応力度というものがあります。
また、仮設物構造計算に限った話ですが、中期許容応力度ということ言葉も使うことがあります。
今回は、仮設物の構造計算(足場や型枠、山留めなど)において、時折耳にする中期許容応力度について説明していきます。
中期許容応力度、便利な用語ではありますが、注意しておくべき用語でもありますので、その意味と用語を使用する時のポイント理解しておきましょう。
中期許容応力度とは
中期許容応力度とは、短期許容応力度と長期許容応力度の中間値のことです。
施工計画、仮設物の構造計算にたまに見かける言葉です。
構造計算では、地震や風圧力などの外力に対して、その構造材が保有する耐力と比較検討して行われますが、その構造物が保有する応力度を許容応力度という言葉で用いられます。
許容応力度は、
部材に常時作用するような自重や積載荷重などに対する保有耐力として、長期許容応力度
地震や台風等の風圧力など、積載荷重より作用する荷重は大きいが、外力として作用する頻度や時間が比較的短い荷重に対する保有耐力として、短期許容応力度と二つの指標を用いています。
構造計算において、正式な用語としての保有耐力の指標はこの二つです。
一方、建設工事中のみに必要な仮設物の構造計算を行う場合、長期というほど長い期間でもないし、とは言っても、短期許容応力度で計算するのはあまりにリスキーと考えることがあります。
便宜上、長期許容応力度と短期許容応力度の中間値を保有耐力として使用したいと計画したい場合に、採用することがあります。
※ただし、無条件に使用できるわけではありませんので、施工計画の妥当性の検証や工事監理者との協議は必ず行いましょう。
仮設物の構造計算において中期許容応力度を採用する理由
中期許容応力度とは、先ほど説明した通り、短期許容応力度と長期許容応力度の中間値として採用されます。
構造計算をするうえでは、長期許容応力度と短期許容応力度に対する構造設計を行います。
一方、仮設部の構造計算においては、工事期間そもそもが建物自体の供用年数に比べ短いので、長期許容応力度を用いるとあまりに不経済な施工計画になったり、仮設物の配置が密になりすぎ、施工効率が落ちてしまうことにもなります。
ただし、そうは言っても短期許容応力度を採用するわけにはいかないです。
部材の種類にもよりますが、鋼材の場合、短期許容応力度は、降伏点の値となります。
施工中の荷重としては、どうしても計画の想定外の荷重が作用してしまったり、計画通りの施工ができないことも考慮しなければなりません。
その際、短期許容応力度を採用していると、仮に想定以上の荷重が作用すると崩壊まではいかなくとも部材が塑性域に達して、部材が想定以上にたわんでしまったりということも可能性があります。
例えば、型枠工事を例にとると、構造計算を行い、床を支持する支柱(パイプサポート)間隔を900mmとしました。
しかし、実際の床には段差があったり、下階の床が吹き抜けで、サポートを適切な位置に配置することができないという場面がどうしても出てきます。
そんな時に、短期許容応力度で比較検討していると、こういった現場の事情に対応することが困難ですし、対応する場合も個別に強度検討や補強策を考えなければなりません。
一方、長期許容応力度で比較検討されていると、少しくらいはずれることも許容できるかと、現場監督が施工計画の内容を把握することで現場対応の素早い判断材料にすることができます。
このように、施工管理者は仮設物の構造計算を行うだけでなく、計算結果をもとに現場のどういったポイントを注意して、施工管理していくかを管理する必要があります。
この項目の最後に採用にあたっての注意点を述べておきます。 仮設物の構造計算において、中期許容応力度を採用することはありますが、どんな場合でも採用できるわけではないということに注意が必要です。
たとえば、建物本体の梁を工事中に支持部材として使用する場合は、本設構造部材なので、長期許容応力度を採用すべきです。
また、仮設に用いる部材は繰り返し使用される経年材が多いです。経年劣化の可能性・影響が大きい、木材の場合などは採用すべきではないと思います。
中期許容応力度とは公式用語ではない
短期許容応力度で計算するのはよくないけど、経済性を考慮すると、長期許容応力度とまでは言えないのではないか、そういったことで仮設物の構造計算において、中期許容応力度を材料の保有耐力として採用することはあります。
ここで、注意しなければならないのは、中期許容応力度は公式な建築用語ではないということです。
長期許容応力度と短期許容応力度という言葉は材料の保有耐力を示す用語として、建築基準法・建築基準法施行令などにも、「長期に生ずる力に対する許容応力度」、「短期に生ずる力に対する許容応力度」として定義されています。
中期許容応力度は、なんとなく意味は分かりますが、正式な用語ではなく、俗語なので、「そんな強度はない」と指摘される場合もあります。
構造計算の指針に関する書籍にも長期許容応力度の規定や短期許容応力度の規定は記載がありますが、中期許容応力度という言葉はありません。
中期許容応力度を仮設物の構造計算など採用する場合は、強度計算書の頭に「短期許容応力度と長期許容応力度の中間値を中期許容応力度する。」など注釈をつけておくことが望ましいです。
もちろん、施工計画や検討する部材に応じて、中期ではなく、長期を採用するということは必要です。
おわりに
中期許容応力度について解説しました。
仮設物の構造計算を行うと便利なので、多くの場面で用いたくなる、保有耐力ではありますが、いくつか注意点がありますので、理解して使用するようにしてもらいたいです。
まずは、検討部材に応じて、中期許容応力度を採用してもいいのかという判断を行わなければなりません。
単管パイプなどの経年材であるけど、鋼材なので、中期許容応力度を採用しようと、計算した場合も、実際に現場に搬入された材料はよく確認する必要があります。
基本的には、経年材の仮設物を管理する会社・工場などで適正に整備されて、繰り返し利用されていると思いますが、中にはずさんな管理を行ってるところもあるでしょう。
仮設物の構造計算は計算して終わりではなく、計算時に仮定した条件通りの現場環境になっているかは確認が必要です。
さらに、中期許容応力度という言葉は、公式な建築用語ではなく、俗称であることを理解しておきましょう。
特に、計算書を作成する中で使用する場合は、「許容応力度は、短期許容応力度と長期許容応力度の中間値を採用する。また、以下、中期許容応力と呼ぶ。」など必ず注釈をつけておくようにしましょう。
思わぬ、認識違いを招く可能性もあります。
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